砂の中から生まれたコンピューターの心臓
コンピューターの中心にいるCPU(中央演算処理装置)。
その素材が ほぼ純度100%のシリコン だと知ると、なんだか不思議な気分になる。
砂の塊から “人類の知性のかたまり” が作られているのだから、これは少し哲学じみた話でもある。
そもそも、なぜシリコンなのか?
なぜ鉄でも銅でも金でもダメなのか?
そして、シリコンより上の素材は存在するのか?
この記事では、その「理由」と「次の時代の候補」をわかりやすく語っていく。
シリコンが選ばれた最大の理由:電子を操りやすい性質
シリコンは“半導体”という性質を持っている。
この半導体というのがクセ者で、
「電気を通す時もあれば、通さない時もある」
という、金属とゴムの中間みたいな性質。
この曖昧さが、コンピューターの世界では都合がいい。
なぜなら、
電気を通す = 1
電気を通さない = 0
として扱えるから。
0と1の世界はプログラムの世界そのもの。
つまり、シリコンは“電子のスイッチ”として極めて優秀な素材なのだ。
シリコンが採用された実用的な理由

科学的な性質のほかに、実用的な理由も大きい。
1. 地球上にメチャクチャ多い
シリコンは地殻の約25%を占める。
つまり、“安くて大量に手に入る素材”としては最強クラス。
金や銀をCPUに使うわけにもいかないので、このコストの低さは決定的だ。
2. 加工しやすい
シリコンは結晶をきれいに作りやすい。
半導体製造では原子の並びがきれいじゃないと性能が出ない。
シリコンは“美しい結晶”を作りやすい素材。
3. 酸化膜(SiO₂)を作れる
シリコンの決定的な強みが、
熱すると勝手にシリコン酸化膜(SiO₂)ができること。
これが絶縁体(電気を通さない壁)として優秀で、
CPUの微細回路に欠かせない存在になっている。
こんな便利な酸化膜を自然に持っている半導体素材は他にほぼない。
他の材料でCPUは作れないのか?
結論から言うと、
「作れるけど、シリコン以上に都合のいい素材がまだない」
というのが現実に近い。
ただし、研究は進んでいて候補素材も存在する。
1. ガリウム・ヒ素(GaAs)
高速で電子を動かせるので、
“軍事レーダー”や“高速通信機器”で使われている。
ただし欠点は多い。
・高価
・加工が難しい
・シリコンほど大量生産に向かない
そのため、CPU全体をGaAsで作るのは現実的ではない。
2. グラフェン(炭素素材)
未来のスター候補。
原子1層の薄さなのに強く、電子の移動も爆速。
理論上はシリコンの10倍以上のスピードが出ると言われる。
ただし…
・大量製造が難しい
・トランジスタとして“完全なON/OFF”を作りにくい
つまり、性能はすごいのに“CPUとして扱いづらい”という問題が残っている。
3. 窒化ガリウム(GaN)
電力効率が良く、発熱にも強い。
充電器やパワー半導体で活躍している。
ただし、細かい回路を作る用途ではまだシリコンほどの技術が整っていない。
では、シリコンの限界は来るのか?
これが面白い話で、
シリコンは限界と言われ続けて20年以上経っている。
それでも進化が止まっていない理由は、メーカー(IntelやTSMC、Samsung)が
“光の波長を変える”
“回路を立体構造にする(FinFET、GAAFET)”
“素材を局所的に変える”
など、工夫と工夫を重ねてしまったから。
いわば、シリコンは「もう限界!」と叫びながらも
人類の技術で無理やり延命され続けている。
未来のCPU素材はどうなるのか?
有力候補はこうなる。
・グラフェン(炭素系)
・カーボンナノチューブ
・GaN(窒化ガリウム)
・InGaAs(インジウムガリウムヒ素)
・量子コンピューター(そもそも仕組みが違う)
ただし、どれもまだ 「シリコン並みの安さ・加工性・大量生産」 の条件を満たせていない。
つまり未来はこう。
性能では他素材が強い
→ でもコストと製造技術でシリコンが最強
→ だから当分はシリコンが主役
という“合理的だけどちょっと切ない”構図が続く。
まとめ:シリコンが選ばれているのは最適だから
・地球に大量
・加工しやすい
・酸化膜が優秀
・安い
・しかも半導体としてちょうどよい性質を持つ
この黄金バランスを超える素材は、まだ現れていない。
砂から生まれた“電子の魔術師”。
CPUは、素材選びからして人類の技術の結晶そのものだ。
