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  • 【スマホバッテリーの日本製化は進むのか?】

    【スマホバッテリーの日本製化は進むのか?】

    いま静かに動き始めた“国産バッテリー復活”の現実

    スマホの修理に携わっていると、バッテリーの品質はどうしても気になる。互換バッテリーの品質に差があることは誰でも知っているし、ときどき「日本製のバッテリーって無いの?」と聞かれることもある。しかし、調べてみると「中国製ばかり」という現状に気づいて驚く人は多い。

    では、本当に日本製スマホバッテリーというものは存在しないのか?
    そして、将来日本製のバッテリーが登場する可能性はあるのか?

    実はここ数年、日本企業と研究機関が水面下で本格的に動き出していて、「スマホ向けの小型バッテリーを国産化しよう」という大きな流れがじわじわ強まっている。

    この記事では、スマホに範囲をしっかり絞ったうえで、
    「日本がスマホ向けバッテリーを作ろうとしている動き」
    を徹底解説する。

    業界の裏側、技術の進化、企業の動き、そして未来の展望まで、ひとつひとつ整理していこう。


    ◆ いまスマホバッテリー市場は“ほぼ中国独占”

    まず現状から確認しておきたい。
    スマホ向けの薄型リチウムイオンバッテリーは、現状ほぼ100%に近いレベルで中国メーカーに依存している。

    特に有名なのが…

    ・ATL(Amperex Technology Limited)
    ・Sunwoda(欣旺达)

    この2社は、AppleやSamsungなど世界のスマホメーカーへ大量供給しており、iPhoneの純正バッテリーの多くも実は中国製だ。
    日本企業がスマホ向けバッテリーから撤退していった結果、日本国内には薄型セルを量産する工場がほぼ無くなっている。

    だからこそ、
    「日本製バッテリーってもう無いの?」
    「国産に戻す動きはないの?」
    と疑問が出てくるわけだ。

    実はその答えは「動きがある」。
    そして、その動きはここ2〜3年で一気に濃くなってきている。


    ◆ 日本がスマホ向けバッテリーを作ろうとしている理由

    日本が再びバッテリー産業に力を入れ始めた背景には、いくつかの強い動機がある。

    1つ目は供給リスク
    スマホ産業が巨大化した結果、特定の国の企業に集中しすぎると、政治・経済情勢の変化で供給が止まるリスクがある。

    2つ目は安全性の重要性
    スマホ用バッテリーは爆発事故が多く、互換バッテリー市場では粗悪な製品が混ざりやすい。日本のメーカーが得意とする「高安全基準の電池」は需要が高い。

    3つ目は次世代バッテリーの覇権争い
    全固体電池・リチウム硫黄電池など、新技術の覇者が今後のスマホ市場を握る可能性が高い。ここで日本企業の研究が非常に強い。

    つまり、
    「スマホ向け日本製バッテリー」は、実は国家戦略レベルで必要とされ始めている分野なのだ。


    ◆ 日本で最もスマホに近い位置にいる企業:村田製作所

    スマホ向けバッテリーの国産化で、最も現実的な動きを見せているのが村田製作所だ。

    村田はソニーから電池部門を買収し、
    世界トップクラスの小型リチウムイオン電池技術
    を持っている。

    そして近年発表されたのが…

    「小型全固体電池の研究開発」

    全固体電池は、従来の液体電解液を固体化することで、
    ・安全性向上
    ・高速充電
    ・長寿命
    など多くのメリットを持つ“次世代バッテリーの大本命”。

    この技術をスマホ級の薄型サイズに落とし込める企業は世界でも少なく、村田はその一角を担っている。
    特に、全固体電池の「極薄化」の研究はスマホ向けに直結するため、専門家の間では「最初に日本製スマホバッテリーを実現する企業は村田だろう」と言われている。


    ◆ パナソニック:小型電池ラインの再強化

    パナソニックはEV用バッテリーで世界的に有名だが、近年はスマホ・ウェアラブル向けの小型電池ラインの増強が話題になっている。

    パナソニックは、
    「安全性」「品質」「耐久性」に特化した日本規格の小型電池を作る可能性が高く、
    ・スマートウォッチ
    ・IoT端末
    ・小型ガジェット
    などを皮切りに、スマホサイズへの展開が期待されている。

    スマホ向けはどの企業も難しいが、パナソニックは技術基盤が強いため、将来的な参入の可能性は無視できない。


    ◆ 国内スタートアップも小型電池に参入し始めている

    日本のバッテリー関連スタートアップも、スマホ向け応用を視野に入れた研究を始めている。

    代表例は…

    ・APB(半固体電池)
    ・エナジーギャップ(薄型電池技術)

    半固体は全固体のように量産が難しくなく、
    「スマホに入れるにはちょうどいいバランス」
    を持っているため、実用化が早い可能性がある。

    まだ試作段階だが、これらの技術が成功すれば、
    日本製小型バッテリーが一気に現実味を帯びるだろう。


    ◆ 大学・国立研究機関の強み:極薄全固体・リチウム硫黄

    大学や研究所もスマホ向けに強い技術を開発している。

    ● 産総研

    軽量で高エネルギー密度なリチウム硫黄電池の小型化を研究。
    これは長時間駆動が必要なスマホと相性が良い。

    ● 東北大学

    全固体電池で重要な「超イオン伝導材料」の薄型化技術を開発。
    スマホのように薄い機器への応用に直結する。

    ● 物質・材料研究機構(NIMS)

    極薄電解質材料など、スマホバッテリーの軽量化に直結する研究を実施。

    大学発技術が企業に技術供与されれば、
    日本製バッテリーの実装が一気に加速する可能性がある。


    ◆ 日本製スマホバッテリーは「いつ市場に出るのか?」

    ここが一番気になるところだろう。
    現在の動きを踏まえた現実的な予測は次の通り。

    ● 最速:3〜5年

    村田製作所の小型全固体または高安全性セルが試作品として登場。

    ● 本命:5〜10年

    日本製スマホバッテリーが正式に製品として市場に出ても不思議ではない。

    ● iPhoneへの採用は別問題

    iPhoneは供給量・コスト・認証が厳しいため、最初は国内Android(Xperia、AQUOS)が採用する可能性が高い。

    つまり、
    “日本製スマホバッテリーが誕生する未来”は十分あり得る。
    ただし量産には時間がかかるため、少し長い目で見る必要がある。


    ◆ 日本製バッテリーが実現したら何が変わる?

    日本製が復活すると、スマホ市場は大きく変わる。

    ● 安全性の向上
    ● 長寿命化
    ● 爆発事故の減少
    ● 高速充電の実現
    ● 国内修理市場の質向上
    ● 供給リスクの低下

    特に修理業界では、
    「粗悪な互換バッテリー」から解放される可能性が高くなる。

    スマホを長く使いたい人にとっても、
    日本製の高品質バッテリーは安心材料になる。


    ◆ まとめ:日本は本気で“スマホ向けバッテリー”を作り始めている

    最後に要点をまとめておこう。

    ● スマホ向けバッテリーは現状ほぼ中国製
    ● 日本企業・研究機関が国産化に向けて本格始動
    ● 村田製作所が最もスマホに近い
    ● パナソニック・スタートアップも小型電池に参入
    ● 大学・研究所の技術がスマホの薄型化に直結
    ● 日本製バッテリーは3〜10年で登場する可能性が高い

    スマホバッテリーは“薄くて、安全で、長持ちして、軽い”という矛盾した要求を満たさなければならないため、技術的にもビジネス的にも難しい分野だ。しかし、その難しい領域に日本が再び挑戦しようとしている。

    これから数年、スマホのバッテリー技術は大きく進化する。
    そしてその進化の中心に、再び“日本”という名前が戻ってくる可能性が高い。

    今のうちにこの流れを追っておくと、修理業界でもガジェット業界でも、強い武器になるはずだ。
    スマホバッテリーの未来は、静かに、しかし確実に動き出している。

  • 台湾有事が起きたとき、IT・半導体産業にどんな影響が出るのか

    台湾有事が起きたとき、IT・半導体産業にどんな影響が出るのか

    地政学リスクとテクノロジーの関係をわかりやすく解説

    世界のニュースを眺めていると、台湾情勢に関する報道を目にする機会が増えている。日本と中国、そして台湾の間で緊張が続き、もし「台湾で軍事行動が起きた場合はどうなるのか」という問いが、多くの人の頭に浮かび始めている。

    この問題は政治だけでは終わらず、私たちが普段使っているスマートフォン、パソコン、ゲーム機、車、さらにはAIの発展まで、あらゆるテクノロジーに直結する。そしてその中でも最も深刻な影響を受けるのが 半導体産業 だ。

    この記事では、台湾に軍事行動が起きたと仮定した場合、世界のIT産業がどのような影響を受け、日本にはどんな変化が訪れるのかを、できるだけわかりやすく整理していく。


    台湾は「世界の半導体工場」。止まると地球が止まる

    まず大前提として知っておきたいのは、台湾は世界の半導体サプライチェーンの中心に位置しているということだ。

    台湾には、世界最大であり世界最高精度を誇る半導体メーカー TSMC(台湾積体電路製造) が存在する。
    この企業は、最先端チップ(5nm、3nm、そして今後の2nm)の製造をほぼ独占しており、その依存度は世界的に見ても極端に高い。

    TSMCのチップは、次のような製品の“頭脳”を担っている。

    • iPhoneやiPad
    • Snapdragonなどのスマホ向けSoC
    • NVIDIAのAI GPU
    • AMDのCPU・GPU
    • PlayStationやニンテンドースイッチの主要部品
    • 自動車の制御コンピュータ
    • サーバー用CPU・アクセラレータ

    つまり、TSMCが止まれば、私たちの日常にある主要電子機器が「作れなくなる」。

    軍事行動は工場の停止に直結する。ミサイルや軍事圧力がある状況で、超精密な半導体工場を稼働させることはできない。物理的な防護だけでなく、電力や物流、化学薬品の供給が途絶えれば、工場は稼働できないのだ。

    要するに、台湾で軍事的な緊張が実際の行動に移れば、世界の半導体供給は即座に麻痺する


    日本への影響:スマホも車もPCも生産が止まる

    日本は半導体素材の分野では強いが、完成したチップそのものの多くは台湾に依存している。特に、最先端プロセス(5nm・3nm)は日本国内では作られていない。

    台湾が止まれば、日本の次のような業種は直撃を受ける。

    ● 自動車産業

    トヨタ・ホンダ・日産など、どのメーカーも多数の半導体を使っている。
    台湾が止まると車が作れなくなるレベルの影響が出る。

    ● 家電・エレクトロニクス産業

    ソニーのテレビやカメラ、パナソニックの家電、シャープの製品など、多数のチップが台湾製だ。

    ● スマホ産業

    AndroidのSoC(Qualcommなど)はTSMC製が主流。
    iPhoneはほぼ全量TSMC。

    ● PC・サーバー

    • AMDのRyzen・EPYC
    • NVIDIAのGPU
    • AppleのMシリーズ
      これらはすべてTSMC依存だ。

    つまり、台湾が止まれば PCもスマホもゲーム機も、日本ではほぼ生産できなくなる

    もちろん、すぐに日本の店頭から商品が消えるわけではないが、新製品の発売が止まる、価格が高騰する、中古市場が異常に活性化するなど、生活に影響が出るレベルになる。


    AI産業が最も深刻なダメージを受ける

    最近急速に発展しているAI分野も、台湾依存度が極めて高い。
    理由は簡単で、AIが動くためにはGPUが必要で、そのGPUのチップ部分を作っているのがTSMCだからだ。

    NVIDIAの最新GPU(H100、B200など)はすべてTSMCが製造している。もし台湾で生産が止まれば、

    • 新しいGPUが入荷しない
    • AI企業が研究できない
    • クラウドのGPUレンタル価格が高騰

    ChatGPT・画像生成AI・ゲームAI・研究AIなど、あらゆるAI分野が停滞する。

    現代のAIブームは、GPUが作られることを前提に成り立っている。その供給が止まるということは、AI技術そのものが数年間のスローダウンを余儀なくされる可能性が高い。


    世界中で物価上昇が起きる

    半導体は現代の“電気”のような存在だ。
    あらゆる産業に必要な部品であり、それが止まるということは、ITにとどまらず世界経済全体を巻き込む。

    台湾有事が仮に起きれば、

    • スマホ・PC・家電が高騰
    • 自動車の値段が上昇
    • ゲーム機の品薄
    • サーバーコストの上昇
    • 企業のIT投資が停滞
    • 物流・生産・金融システムの遅延

    こういった影響が連鎖的に起こる。

    半導体価格は製品価格全体の一部だが、供給停止は最終的に生活に直結するインパクトを持つ。


    サイバー攻撃のリスクが高まる

    軍事行動が起きれば、同時にサイバー攻撃のリスクも高まる。
    実際、世界の紛争や緊張状態では、通信インフラ・金融・公共機関へのサイバー攻撃が必ずといっていいほど増加している。

    日本も例外ではなく、次の分野が攻撃対象になりやすい。

    • インターネット回線
    • 銀行・証券関連のシステム
    • 病院の電子カルテ
    • 交通インフラ
    • 大企業のネットワーク

    これによって、私たちの日常に遅延や障害が発生する可能性がある。

    半導体供給が止まるだけでなく、情報システム自体が混乱する可能性があるため、企業のIT担当は複数のリスクを同時に抱えることになる。


    企業の戦略が「脱・台湾依存」にシフトする

    こういった背景から、すでに世界の企業は台湾への依存を減らす動きを見せている。

    • アメリカは国内での製造を拡大(インテルの復活計画、TSMCのアリゾナ工場)
    • 日本は次世代半導体工場「Rapidus(ラピダス)」を立ち上げ
    • 欧州も製造拠点を増やす政策を推進

    ただし、これらは“今すぐ代替できる”レベルではない。
    TSMCの技術を追いつくには、膨大な投資と時間が必要で、評価では 10年以上かかる とされている。

    そのため、台湾が危機に陥った場合の“穴”は、短期間では埋まらない。

    世界はすでに半導体をめぐるリスクを深刻に捉えており、国家レベルでの産業再構築が進んでいる。


    最悪と緩和、2つのシナリオを考える

    ここでは、台湾有事が実際に起きた場合に想定される2つのシナリオを整理しておく。

    ● 最悪のケース

    • 最先端チップが完全に供給停止
    • 世界のスマホ・PC・AI・自動車産業が停滞
    • 半導体価格が高騰
    • IT製品が軒並み2〜3倍に
    • AI開発が数年単位で停止
    • 日本の製造業が大幅な縮小

    これは「地球全体が一時的に技術的停滞に入る」レベルのインパクトを持つ。

    ● 短期間で収束した場合

    • 半導体価格が上昇
    • 一時的な供給不足
    • 日本企業は在庫で1〜3ヶ月は耐えられる
    • しかし、TSMCの代替はすぐには不可能
    • サムスン・インテルが製造能力拡大に動く

    この“緩和シナリオ”でも、完全回復には数ヶ月〜数年かかる。


    まとめ:台湾で軍事行動が起きれば、世界のITが止まる

    結論として、台湾で軍事行動が発生すれば、

    IT・半導体産業は世界レベルでストップし、日本も深刻な影響を受ける。

    半導体は現代の文明を支える基盤であり、その生産の中心が台湾に集中している以上、台湾情勢は日本にとって遠いニュースではなく、直接的な生活・ビジネス・産業の問題だ。

    この問題を理解することは、今後の経済や技術の流れを読むためにも重要だ。
    企業の動向、各国の政策、半導体技術の進化を追うことは、これからのIT時代に生きる上で欠かせない視点となる。

    台湾情勢がどう動くかは誰にも断言できないが、半導体産業がこれほどまでに地政学に影響される時代になったという事実は、私たちがこれからの技術と社会のあり方を考える大きな手がかりとなるだろう。

  • 「半導体=シリコン」だと思っていた話。

    「半導体=シリコン」だと思っていた話。

    そこから広がる“未来の材料”の世界が想像以上に熱かった。**

    気づけば、PCを開いたり、スマホを触ったり、AIの巨大モデルを使ったりする生活が当たり前になっている。
    その裏側で動いている“半導体”といえば、多くの人は 「シリコン(Silicon)」 を思い浮かべるはず。
    正直、自分も長いあいだ “半導体=シリコン一択” だと思っていた。

    でも調べてみると──世界はとんでもないことになっていた。
    シリコンは確かに王者。でも、その周りには 次世代候補が何人も出てきていて、しかもそれぞれ能力が違う。
    ちょっとRPGのパーティー編成みたいに、“用途ごとに強いキャラが違う”状態になっていた。

    この記事では、「シリコン以外の半導体がどう進化しているのか」「なぜ置き換えが進んでいないのか」「それでも未来に向けて何が起きているのか」を、初めて知った人でもワクワク読めるようにまとめていく。


    ■ シリコンはなぜ“王者”なのか

    シリコンって、実は地球の地殻に大量にある“砂”の仲間。
    安い、扱いやすい、酸化膜(SiO₂)が自然に作れる、熱にもそこそこ強い。
    技術者が60年以上「使いやすいじゃん」と言い続けた結果、
    世界中の工場も製造装置もシリコンに完全最適化されてしまった。

    つまりシリコンは性能だけじゃなく、
    “人類の工業の積み重ね”という巨大な後ろ盾を持つ存在。
    これが強い。

    でも、微細化の限界が近づいてきていて、
    「じゃあ次は誰を使う?」という空気がじわじわ強まっている。


    ■ 実はこんなにある、シリコン以外の半導体材料

    ここからは、シリコンしか知らなかった自分が驚いた“次の候補たち”を紹介する。


    ● 窒化ガリウム(GaN)

    家電のACアダプタを小さくした立役者。
    高電圧・高速スイッチングが得意で、スマホ充電器の“うす型&高効率化”はほぼGaNの力。

    ・ただしCPUやGPUには向かない
    ・パワー系専門のエリート

    → シリコンを倒す存在ではなく、シリコンを支える“相棒”


    ● 炭化ケイ素(SiC)

    EV(電気自動車)の効率アップに直接効く材料。
    高温・高耐圧に強いので、車載用途で大活躍中。

    ・EV化が進むほど需要が増える
    ・すでに実用化されている

    → パワー半導体界の本命


    ● シリコンゲルマニウム(SiGe)

    IntelやTSMCが採用している“スピード強化剤”。
    シリコンでは限界が近い部分を補強するようなイメージ。

    ・CPUの一部層で使われ始めている
    ・全面置換ではなく“部分的に組み込む”

    → シリコンの身体能力を底上げするブースター


    ● グラフェン / MoS₂(2D材料)

    研究者のテンションが一番高い分野。
    原子1層レベルで薄いのに、電子移動速度が理論上とんでもなく速い。

    ・トランジスタの試作は多数成功
    ・でも量産が鬼ムズ
    ・産業化は2030年代後半〜40年頃が現実的ライン

    → 性能は夢がある。ただし「工場」に持ってくるのが地獄


    ● ダイヤモンド半導体

    物理性能だけ見たら最強。
    熱にも電圧にも強く、電子移動も速い。

    ・でも加工が難しすぎて高価
    ・一般用途には不向き
    ・軍事・宇宙・特殊産業向けの未来が濃厚

    → 伝説の武器だけど、コストが神の試練


    ■ 「じゃあ、なんでシリコンはまだ主役なの?」

    理由はシンプルで強烈。

    “安く大量に作れる”
    “既に世界中の工場が最適化されている”
    “充分に高性能”

    この3つが揃った材料は、今のところシリコンしかない。
    だからシリコンの牙城は簡単には崩れない。

    たとえばグラフェンがいくら優秀でも、
    グラフェン対応の装置を新しく作り、
    世界規模で量産できるレベルに持っていくコストは天文学的。

    材料が強い=勝つ
    じゃなくて、

    「材料+製造設備+人類の産業の積み重ね」
    この3つが揃ってようやくチャンピオンになれる。


    ■ 現実的な未来像

    実際のところ、2030〜2040年の半導体世界はこうなる可能性が高い。

    ・シリコンは主役のまま
    ・CPU/GPUの一部にGeや2D材料が組み込まれる
    ・パワーデバイスはGaN・SiCが主流
    ・特殊用途はダイヤモンドなど個別最適

    つまり未来は
    “ひとつの材料で全部まかなう時代”じゃなくなる。
    それぞれの役割に最適な素材を混ぜて使うハイブリッド時代。

    PCの中を見るとき、
    「このチップはシリコン、この電源周りはSiC、この充電器はGaN…」
    みたいに、用途ごとにキャラが違う未来が見えてくる。


    ■ まとめ

    「半導体=シリコン」
    この考え方は実用上は正しい。
    でも世界の研究現場は、すでに “次の選手たち” を並べて、性能や製造性を徹底的に比較している。

    シリコンが絶対王者であり続けるのは、材料としての性能だけじゃなく、
    “人類が育ててきたインフラそのもの”がシリコンを支えているから。

    その上で、
    GaN、SiC、SiGe、グラフェン、MoS₂、ダイヤモンド…
    それぞれがシリコンでは届かない分野を補う形で登場し、
    これからの半導体は 用途別最適化時代に突入 していく。

    AIも、PCも、EVも、通信も──
    すべては材料科学の進化に深く結びついていて、
    未来の技術は“どの材料を選ぶか”で大きく変わる。

    技術の世界は、知れば知るほど広くて面白い。
    次に何が来るのか、ワクワクが止まらない。

  • マザーボードって自作できないの?オーダーメイドは存在するの?という話

    マザーボードって自作できないの?オーダーメイドは存在するの?という話

    PC をコンパクトにしたくてケースを探していた時、ふと頭に浮かんだことがある。
    「これ、マザーボード小さくしたらもっといけるんじゃね?」
    もう完全にノリなんだけれど、実際やってみたらどうなんだろう。ちょん切ったら小さくなるのか?そもそも自作できるのか?
    その疑問をそのままブログにしてみる。

    ◆ なぜそんなことを考えたのか

    最近、小型 PC に興味が出てきて、Mini-ITX や NUC 系のマザーボードを見比べていた。
    でもどれも「惜しい」。USB の位置が微妙、電源の取り回しが邪魔、あと 1cm 小さければケースがもっと自由に作れそう…みたいなもどかしさがある。

    なら自作すれば?
    と気軽に思ったのだけど、調べていくと“マザーボードの壁”が見えてくる。


    マザーボードを自作するのは可能か?

    結論:
    個人レベルではほぼ不可能。
    技術的にはできるけれど、経済的にも実務的にも成立しない。

    ◆ 理由1:部品点数が異常

    マザーボードには数千〜数万の部品が乗っている。
    抵抗、コンデンサ、フェライト、さらには配線パターン。しかも CPU ソケットやメモリスロットの規格は厳密で、配線の長さ・間隔がナノ単位の世界になる。

    ハンダゴテ片手じゃ太刀打ちできない。
    ほぼ宇宙船の装置みたいな精密さ。

    ◆ 理由2:配線設計の難易度がバグってる

    PCIe や DDR メモリは「配線の長さが揃っていないと動かない」。
    ミリ単位どころじゃない。
    高速信号は“線の長さ=時間差”なので、ずれているとデータが破綻する。

    つまり、
    適当にちょん切った瞬間、通信規格が全滅する。

    ◆ 理由3:テスト環境が個人では揃わない

    メーカーは高額な検査機器を使い、微細な電圧の揺れから信号の乱れまで全部チェックしている。
    個人でその精度を出すのは現実的ではない。


    じゃあ「特注」マザーボードは存在するの?

    ここはちょっと面白い。
    実は“企業向け”なら存在する。
    完全オーダーメイドはハードルが高いけれど、次のような形ならある。

    ◆ 1. 産業用マザーボードメーカー

    組み込み機器(ATM、医療機器、工場機械)向けに特注サイズのマザーを作ってくれる会社がある。
    ただし「最小ロット100枚から」とか「設計費数百万円」とか、個人には優しくない。

    ◆ 2. 既存ボードをベースにカスタム

    CPU やチップセットはそのままに、
    ・コネクタの位置変更
    ・不要機能の削除
    ・小型化基板
    などに対応してくれる場合がある。

    ただし 費用は数十万〜数百万 が普通。

    ◆ 3. OCP(Open Compute Project)のような企業用規格

    Facebook や大企業向けに“シンプル化したマザーボード設計”を公開しているプロジェクトもある。
    ただしこれはデータセンター向けで、個人PCとは用途が別。

    ◆ 個人が現実的に頼めるレベルは?

    オーダーメイド系の会社は基本的に“法人取引前提”。
    趣味レベルの「ケースに合わせて小さくしてほしい」はほぼ受けてくれない。


    じゃあどうすればコンパクト PC を作れるの?

    ここに一筋の光がある。
    妥協ではなく“攻略法”。

    ◆ 1. Mini-ITX + Flex/TFX電源

    すでに相当小さい規格なので、ケース次第でかなり自由に縮められる。

    ◆ 2. NUC系や超小型ボードを使う

    メーカー製の超小型基板を流用する。
    Intel NUC, ASUS PNシリーズ, ASRock DeskMini など。

    これらは“コンパクトPCの限界を突き詰めた結果”なので、自作より確実。

    ◆ 3. ケースを自作する

    むしろこっちのほうが現実的。
    3Dプリンタ・木材・アルミ板などで外装を作り、既存マザーをギリギリ詰め込む。
    多少の自由度ならこれで十分手に入る。


    まとめ:ちょん切るのは無理だが、夢は諦める必要なし

    マザーボードを個人で自作するのは、
    「DIYで人工衛星作る」くらいの難易度。
    技術と資金さえあれば可能だけど、現実的ではない。

    ただし、
    オーダーメイドの世界は存在するし、大企業は実際にやっている。

    個人が小型PCの夢を追うなら、
    既存マザーを最大限活かして ケース側で自由を作る のが最適解。

    コンパクトPCを究める道は、
    意外と“マザーボードをいじらない”ところから始まる。
    不便さの中に工夫の楽しさが隠れている。


  • 最近RAMが高いのはなんでなん?

    最近RAMが高いのはなんでなん?

    AI時代が生み出した“メモリ価格高騰”の裏側

    パソコンを自作している人、メモリ増設を考えている人のあいだで、
    最近よく聞く言葉がある。

    「RAM、高くなってない?」

    実際、ここ1〜2年でメモリ価格は大きく上昇している。
    しかもただの一時的な値上がりではなく、世界的な半導体事情が深く絡んだ“必然的な高騰”なのだ。

    この記事では、
    RAM(メモリ)がなぜここまで高くなったのか、
    その理由をシンプルに、でも本質的に解説していく。


    1. AIブームでメモリ需要が爆発している

    ChatGPT、画像生成AI、SunoなどのAIサービスが世界中で使われている。
    そしてこれらのAIが動く巨大データセンターでは、
    大量のDRAMやHBM(高帯域幅メモリ)が必須 だ。

    特にHBMはCPUやGPUの横に積み重ねて使う特別なメモリで、
    製造難易度も価格も普通のRAMとは比べ物にならない。

    メーカー(Samsung・Micron・SK hynix)は収益の大半をAI向けに注ぎ、
    一般向けRAMの生産ラインは縮小してしまった。

    結果として、

    AI需要のせいで普通のPC向けRAMが不足 → 価格上昇

    という流れになっている。


    2. メモリメーカーが“赤字回避”のために供給を絞っている

    数年前、メモリ価格が歴史的な安値になった。
    安すぎて、メーカー側が大赤字になるレベルだった。

    その反動が今。

    メーカーは意図的に減産し、
    供給を減らして価格を引き上げる という戦略をとっている。

    「企業が利益を守るための調整」が行われているため、
    市場に流れるメモリの量が少なくなり、値段が高止まりしているのだ。


    3. DDR4からDDR5への移行期で価格が乱れやすい

    現在はメモリの世代交代(DDR4 → DDR5)が進行中。

    このタイミングでは以下の現象が同時に発生する。

    ・DDR4は需要減+生産ライン縮小で逆に高騰
    ・DDR5は需要急増で高止まり

    つまり、

    どちらの規格を買っても高い時期

    という、ユーザーに厳しい局面にある。


    4. 円安が日本価格をさらに押し上げる

    日本独自の事情として、円安の影響が大きい。
    メモリはすべて輸入製品なので、円安になると価格がそのまま上乗せされる。

    世界的には値上がり幅が小さくても、
    日本ではそれ以上に高くなることがある。


    5. HBM需要の急増で市場が不安定化している

    NVIDIAのAI向けGPUが大量に使うHBMは、今もっとも製造が難しい半導体のひとつ。
    3D積層構造で歩留まり(成功率)が低く、失敗すればまるごと廃棄という厳しい世界。

    このHBMに各メーカーが人材・設備を集中しているため、
    通常のPC向けメモリの生産がさらに圧迫されている。

    AIの成長がそのままRAMの価格に影響する時代
    になってしまったわけだ。


    まとめ:RAM高騰は“AI時代の宿命”でもある

    RAMが高い理由をざっくりまとめるとこうなる。

    • AI向けメモリ需要が急増
    • メーカーの減産戦略で供給が少ない
    • DDR5移行期で価格が不安定
    • 円安で日本だけ割高
    • 超高難度のHBM製造が市場全体を圧迫

    つまり、どの要因も一時的ではなく、構造的なものばかり。

    しばらくの間、RAMは 大きく値下がりしにくい時代 が続く可能性が高い。


    今後どうなる? 値下がりのタイミングは?

    現状では、

    ・メーカーの生産能力がHBMに追いつく
    ・DDR5が完全に普及し価格が落ち着く
    ・為替が改善する

    こうした条件が揃わない限り、価格が大きく下がる見込みは少ない。

    特にAI需要はまだ伸び続けているため、
    メモリ市場は“高価な時代”が続きそうだ。

  • なぜCPUはシリコンで作られているのか?

    なぜCPUはシリコンで作られているのか?

    砂の中から生まれたコンピューターの心臓

    コンピューターの中心にいるCPU(中央演算処理装置)。
    その素材が ほぼ純度100%のシリコン だと知ると、なんだか不思議な気分になる。
    砂の塊から “人類の知性のかたまり” が作られているのだから、これは少し哲学じみた話でもある。

    そもそも、なぜシリコンなのか?
    なぜ鉄でも銅でも金でもダメなのか?
    そして、シリコンより上の素材は存在するのか?

    この記事では、その「理由」と「次の時代の候補」をわかりやすく語っていく。


    シリコンが選ばれた最大の理由:電子を操りやすい性質

    シリコンは“半導体”という性質を持っている。
    この半導体というのがクセ者で、
    「電気を通す時もあれば、通さない時もある」
    という、金属とゴムの中間みたいな性質。

    この曖昧さが、コンピューターの世界では都合がいい。

    なぜなら、
    電気を通す = 1
    電気を通さない = 0

    として扱えるから。

    0と1の世界はプログラムの世界そのもの。
    つまり、シリコンは“電子のスイッチ”として極めて優秀な素材なのだ。


    シリコンが採用された実用的な理由

    科学的な性質のほかに、実用的な理由も大きい。

    1. 地球上にメチャクチャ多い

    シリコンは地殻の約25%を占める。
    つまり、“安くて大量に手に入る素材”としては最強クラス。

    金や銀をCPUに使うわけにもいかないので、このコストの低さは決定的だ。

    2. 加工しやすい

    シリコンは結晶をきれいに作りやすい。
    半導体製造では原子の並びがきれいじゃないと性能が出ない。

    シリコンは“美しい結晶”を作りやすい素材。

    3. 酸化膜(SiO₂)を作れる

    シリコンの決定的な強みが、
    熱すると勝手にシリコン酸化膜(SiO₂)ができること。

    これが絶縁体(電気を通さない壁)として優秀で、
    CPUの微細回路に欠かせない存在になっている。

    こんな便利な酸化膜を自然に持っている半導体素材は他にほぼない。


    他の材料でCPUは作れないのか?

    結論から言うと、
    「作れるけど、シリコン以上に都合のいい素材がまだない」
    というのが現実に近い。

    ただし、研究は進んでいて候補素材も存在する。

    1. ガリウム・ヒ素(GaAs)

    高速で電子を動かせるので、
    “軍事レーダー”や“高速通信機器”で使われている。

    ただし欠点は多い。

    ・高価
    ・加工が難しい
    ・シリコンほど大量生産に向かない

    そのため、CPU全体をGaAsで作るのは現実的ではない。

    2. グラフェン(炭素素材)

    未来のスター候補。
    原子1層の薄さなのに強く、電子の移動も爆速。

    理論上はシリコンの10倍以上のスピードが出ると言われる。

    ただし…

    ・大量製造が難しい
    ・トランジスタとして“完全なON/OFF”を作りにくい

    つまり、性能はすごいのに“CPUとして扱いづらい”という問題が残っている。

    3. 窒化ガリウム(GaN)

    電力効率が良く、発熱にも強い。
    充電器やパワー半導体で活躍している。

    ただし、細かい回路を作る用途ではまだシリコンほどの技術が整っていない。


    では、シリコンの限界は来るのか?

    これが面白い話で、
    シリコンは限界と言われ続けて20年以上経っている。

    それでも進化が止まっていない理由は、メーカー(IntelやTSMC、Samsung)が
    “光の波長を変える”
    “回路を立体構造にする(FinFET、GAAFET)”
    “素材を局所的に変える”
    など、工夫と工夫を重ねてしまったから。

    いわば、シリコンは「もう限界!」と叫びながらも
    人類の技術で無理やり延命され続けている。


    未来のCPU素材はどうなるのか?

    有力候補はこうなる。

    ・グラフェン(炭素系)
    ・カーボンナノチューブ
    ・GaN(窒化ガリウム)
    ・InGaAs(インジウムガリウムヒ素)
    ・量子コンピューター(そもそも仕組みが違う)

    ただし、どれもまだ 「シリコン並みの安さ・加工性・大量生産」 の条件を満たせていない。

    つまり未来はこう。

    性能では他素材が強い
    → でもコストと製造技術でシリコンが最強
    → だから当分はシリコンが主役

    という“合理的だけどちょっと切ない”構図が続く。


    まとめ:シリコンが選ばれているのは最適だから

    ・地球に大量
    ・加工しやすい
    ・酸化膜が優秀
    ・安い
    ・しかも半導体としてちょうどよい性質を持つ

    この黄金バランスを超える素材は、まだ現れていない。

    砂から生まれた“電子の魔術師”。
    CPUは、素材選びからして人類の技術の結晶そのものだ。