地政学リスクとテクノロジーの関係をわかりやすく解説
世界のニュースを眺めていると、台湾情勢に関する報道を目にする機会が増えている。日本と中国、そして台湾の間で緊張が続き、もし「台湾で軍事行動が起きた場合はどうなるのか」という問いが、多くの人の頭に浮かび始めている。
この問題は政治だけでは終わらず、私たちが普段使っているスマートフォン、パソコン、ゲーム機、車、さらにはAIの発展まで、あらゆるテクノロジーに直結する。そしてその中でも最も深刻な影響を受けるのが 半導体産業 だ。
この記事では、台湾に軍事行動が起きたと仮定した場合、世界のIT産業がどのような影響を受け、日本にはどんな変化が訪れるのかを、できるだけわかりやすく整理していく。
台湾は「世界の半導体工場」。止まると地球が止まる
まず大前提として知っておきたいのは、台湾は世界の半導体サプライチェーンの中心に位置しているということだ。
台湾には、世界最大であり世界最高精度を誇る半導体メーカー TSMC(台湾積体電路製造) が存在する。
この企業は、最先端チップ(5nm、3nm、そして今後の2nm)の製造をほぼ独占しており、その依存度は世界的に見ても極端に高い。
TSMCのチップは、次のような製品の“頭脳”を担っている。
- iPhoneやiPad
- Snapdragonなどのスマホ向けSoC
- NVIDIAのAI GPU
- AMDのCPU・GPU
- PlayStationやニンテンドースイッチの主要部品
- 自動車の制御コンピュータ
- サーバー用CPU・アクセラレータ
つまり、TSMCが止まれば、私たちの日常にある主要電子機器が「作れなくなる」。
軍事行動は工場の停止に直結する。ミサイルや軍事圧力がある状況で、超精密な半導体工場を稼働させることはできない。物理的な防護だけでなく、電力や物流、化学薬品の供給が途絶えれば、工場は稼働できないのだ。
要するに、台湾で軍事的な緊張が実際の行動に移れば、世界の半導体供給は即座に麻痺する。
日本への影響:スマホも車もPCも生産が止まる
日本は半導体素材の分野では強いが、完成したチップそのものの多くは台湾に依存している。特に、最先端プロセス(5nm・3nm)は日本国内では作られていない。
台湾が止まれば、日本の次のような業種は直撃を受ける。
● 自動車産業
トヨタ・ホンダ・日産など、どのメーカーも多数の半導体を使っている。
台湾が止まると車が作れなくなるレベルの影響が出る。
● 家電・エレクトロニクス産業
ソニーのテレビやカメラ、パナソニックの家電、シャープの製品など、多数のチップが台湾製だ。
● スマホ産業
AndroidのSoC(Qualcommなど)はTSMC製が主流。
iPhoneはほぼ全量TSMC。
● PC・サーバー
- AMDのRyzen・EPYC
- NVIDIAのGPU
- AppleのMシリーズ
これらはすべてTSMC依存だ。
つまり、台湾が止まれば PCもスマホもゲーム機も、日本ではほぼ生産できなくなる。
もちろん、すぐに日本の店頭から商品が消えるわけではないが、新製品の発売が止まる、価格が高騰する、中古市場が異常に活性化するなど、生活に影響が出るレベルになる。
AI産業が最も深刻なダメージを受ける
最近急速に発展しているAI分野も、台湾依存度が極めて高い。
理由は簡単で、AIが動くためにはGPUが必要で、そのGPUのチップ部分を作っているのがTSMCだからだ。
NVIDIAの最新GPU(H100、B200など)はすべてTSMCが製造している。もし台湾で生産が止まれば、
- 新しいGPUが入荷しない
- AI企業が研究できない
- クラウドのGPUレンタル価格が高騰
ChatGPT・画像生成AI・ゲームAI・研究AIなど、あらゆるAI分野が停滞する。
現代のAIブームは、GPUが作られることを前提に成り立っている。その供給が止まるということは、AI技術そのものが数年間のスローダウンを余儀なくされる可能性が高い。
世界中で物価上昇が起きる
半導体は現代の“電気”のような存在だ。
あらゆる産業に必要な部品であり、それが止まるということは、ITにとどまらず世界経済全体を巻き込む。
台湾有事が仮に起きれば、
- スマホ・PC・家電が高騰
- 自動車の値段が上昇
- ゲーム機の品薄
- サーバーコストの上昇
- 企業のIT投資が停滞
- 物流・生産・金融システムの遅延
こういった影響が連鎖的に起こる。
半導体価格は製品価格全体の一部だが、供給停止は最終的に生活に直結するインパクトを持つ。
サイバー攻撃のリスクが高まる
軍事行動が起きれば、同時にサイバー攻撃のリスクも高まる。
実際、世界の紛争や緊張状態では、通信インフラ・金融・公共機関へのサイバー攻撃が必ずといっていいほど増加している。
日本も例外ではなく、次の分野が攻撃対象になりやすい。
- インターネット回線
- 銀行・証券関連のシステム
- 病院の電子カルテ
- 交通インフラ
- 大企業のネットワーク
これによって、私たちの日常に遅延や障害が発生する可能性がある。
半導体供給が止まるだけでなく、情報システム自体が混乱する可能性があるため、企業のIT担当は複数のリスクを同時に抱えることになる。
企業の戦略が「脱・台湾依存」にシフトする
こういった背景から、すでに世界の企業は台湾への依存を減らす動きを見せている。
- アメリカは国内での製造を拡大(インテルの復活計画、TSMCのアリゾナ工場)
- 日本は次世代半導体工場「Rapidus(ラピダス)」を立ち上げ
- 欧州も製造拠点を増やす政策を推進
ただし、これらは“今すぐ代替できる”レベルではない。
TSMCの技術を追いつくには、膨大な投資と時間が必要で、評価では 10年以上かかる とされている。
そのため、台湾が危機に陥った場合の“穴”は、短期間では埋まらない。
世界はすでに半導体をめぐるリスクを深刻に捉えており、国家レベルでの産業再構築が進んでいる。
最悪と緩和、2つのシナリオを考える
ここでは、台湾有事が実際に起きた場合に想定される2つのシナリオを整理しておく。
● 最悪のケース
- 最先端チップが完全に供給停止
- 世界のスマホ・PC・AI・自動車産業が停滞
- 半導体価格が高騰
- IT製品が軒並み2〜3倍に
- AI開発が数年単位で停止
- 日本の製造業が大幅な縮小
これは「地球全体が一時的に技術的停滞に入る」レベルのインパクトを持つ。
● 短期間で収束した場合
- 半導体価格が上昇
- 一時的な供給不足
- 日本企業は在庫で1〜3ヶ月は耐えられる
- しかし、TSMCの代替はすぐには不可能
- サムスン・インテルが製造能力拡大に動く
この“緩和シナリオ”でも、完全回復には数ヶ月〜数年かかる。
まとめ:台湾で軍事行動が起きれば、世界のITが止まる
結論として、台湾で軍事行動が発生すれば、
IT・半導体産業は世界レベルでストップし、日本も深刻な影響を受ける。
半導体は現代の文明を支える基盤であり、その生産の中心が台湾に集中している以上、台湾情勢は日本にとって遠いニュースではなく、直接的な生活・ビジネス・産業の問題だ。
この問題を理解することは、今後の経済や技術の流れを読むためにも重要だ。
企業の動向、各国の政策、半導体技術の進化を追うことは、これからのIT時代に生きる上で欠かせない視点となる。
台湾情勢がどう動くかは誰にも断言できないが、半導体産業がこれほどまでに地政学に影響される時代になったという事実は、私たちがこれからの技術と社会のあり方を考える大きな手がかりとなるだろう。


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